2012年5月6日日曜日

How To Go To U.S. Graduate Schools In Mathematics


How to go to U.S. graduate schools in mathematics 河東のホームページに戻る.

私は履歴書のページにもあるとおり, 昔アメリカ(UCLA)の大学院に留学して 博士(Ph.D.)を取っていて,うちの卒業生もこれまでにアメリカの 大学院に正規の大学院生として留学しているので, けっこう留学の方法について聞かれることがあります. そこで一般的な情報についてここにまとめておくことにしました. 別にアメリカがなんでもすぐれているとか,みんなでこぞってアメリカに 行くべきだとかはちっとも思いませんが,一般的に言って日本の数学の 学生でアメリカに留学する人はあまりに少な過ぎで,もう少したくさん 行った方が本人のためにも日本の数学のためにもいいと思います. いい学生がいれば奨学金はいろいろあるが誰かいないか,というようなことを アメリカ側から聞かれることもわりとあるので,これを書いてみました.

これは,あくまで私の経験と知識に基づく,「アメリカ」の「数学科」の大学院への 留学に関する情報であり,しかも研究者を目指すケースを想定しています. そのほかの国や専門分野についてはいろいろ事情が違うでしょうし, アメリカの数学科についても,私の無知,誤解等によって 情報がゆがんでいる可能性がありますので, この内容の利用についてはご自分の責任で行われるようお願いします.

一般的な情報

まず,その辺で売っている留学案内みたいなものは数学とはだいぶ事情が違うので, ほとんど役にたちません.(最近は理科系研究留学案内のような本もだいぶ 出ていて少しは役に立つものもありますが,数学は実験がないため, ほかの理科系と違う点がたくさんあります.) アメリカの数学科大学院(博士課程)について最初に強調すべきことは,基本的に 授業料はタダないしタダ同然の上に生活費もくれる ということです.気前がよすぎると思うかもしれませんが, 日本の大学院の方が世界の常識から外れてケチなのです. (この非常に重要な情報が日本で広く知られていないのはなぜでしょうか.) そのかわり,アメリカには Teaching Assistant と呼ばれる院生の仕事があって,学部の演習などの手伝いをします. これについては下にもっと詳しく書きます.

次に多くの人が気にする入学の審査(誰が合格するのか)についてです. 日本人の場合受験に慣れているために,入学審査と言うと 客観的な点数で順位がつくとか,TOEFL などの試験の成績で決まるとか思いがちですが, アメリカの仕組みはまったくそういうものではありません. 日本のイメージでいえば就職活動に近いものです. 向こうは自分の学科を活性化するような 優秀な学生が欲しいのです.そうであることを,成績,推薦状,これまでの論文等 何でもいいですから納得させられればそれでいいのであって,細かい規則など はまったく問題ではありません.客観的な一律の基準と言うものはありません. たとえば,自分の先生と向こうのつきたい先生がお互いによく知っていれば 断然有利で,そういう意味でのコネも有効です.自分のつきたい教授が,こいつを ぜひ入れたい,と思ってくれればそれでもう大丈夫です. 絶対必要と書いてある試験(たとえば GRE)を受けなかったとか, 締切りを何ヶ月も過ぎてから申し込んだとか,TOEFL の成績が 悪いからあなたは自動的に失格ですという手紙を事務からもらったとか, そういうのでちゃんと一流大学院に合格した例はいくつも知っています. もちろん誰でも行けるわけではないので, 数学の実力を実証できる何かがほかにあった場合,ということですが. また全ての面について交渉の余地があり, 「こうして欲しい」と言ってみる価値はあります. 奨学金の額でさえ交渉次第で変化します.私は昔, UCLA と SUNY Stony Brook で双方に,「あっちはもっとくれると言っている」 と言ったところ,双方2回ずつ金額を吊り上げて来ました. (私はただ状況説明のつもりで手紙を書いたので,吊り上げてくるとは 思っていませんでしたが.)

それから一般的な仕組みの話で,上に大学院(博士課程)と書きましたが, アメリカでは博士(Ph.D.)を取りたい人は学部のあとすぐに 博士課程に入学し,修士は途中でついでに取ることもできるし, 取らないまま博士だけをとってもいいという仕組みです.修士課程というのは 基本的には最初から修士だけでやめる人のためのものです.決まった年限と言うのも ありませんが,普通は5〜6年くらいかかるのが標準でしょう.ただし,これも 完全に本人次第で,特にアメリカの場合世界中から経歴,実力,年齢など 千差万別の人がやってくるので,日本のようにきっちり,博士課程は3年と決まって いることはありません.何か決まった規則があったとしてもどうにでもなります.


もっと本を読んですることで、賢くでしょうか?

下にも書くように,アメリカの学部ではほとんど専門的なことはしないので, 大学院出願の時点では何を研究したいかというようなことはまったく決まって いないのが普通ですが,日本から行く場合は,学部でかなり専門的なことを やっているので,もう専門が決まっている場合が普通でしょう.ですから 自分の専門の有名な人を探してつきたい人を決めて, その大学院に行くのがよいでしょう.仮にその先生が他大学に移ってもちゃんと 話がついていれば学生も一緒に移れます. 日本でその分野の人に聞けば誰がどこにいるとか,面倒見がいいかどうかの 評判などはある程度わかります. 基本的なデータは Internet でも簡単に見つかります. 大学のホームページもたくさんあるし, 論文検索をすれば所属大学も当然書いてあります. アメリカでは,あまり日本で知られていないような大学でもノーベル賞級の 有名な人がいることもけっこうあるので,ちゃんと調べることが大事です. 特定の少数有名大学に集中しているわけではありません. また大学ごとに得意分野があって, ある分野の教授陣を固めてそろえているということもけっこうあるので, 一般的なランキングが低くても自分の分野では一流の人がそろっているということも ありえます.

上に少し書いたように,アメリカの学部の数学ではたいしたことは やりません.だから逆に言えば,日本でそれほど高度なことをやっていなく ても大学院で一から勉強することが可能とも言えます. 日本では一部の主要大学以外ではあまり授業も充実していない傾向があるので, その点アメリカの方が勉強しやすい面もあります.

また,一般にアメリカの大学では少数民族や女性の学生や教員を増やすことに 非常な努力をしています.アジア人は人口比よりもずっとたくさん 大学にいるので,たとえアメリカ国籍を取っても 少数民族あつかいは受けられませんが,女性は国籍を問わず,大事に してくれるでしょう.数学科大学院生の女性比率は今1/4くらいだったと思います. それから年齢についてもさまざまな院生がいます.アメリカでは就職の 際に,「○○歳以下」というような募集の仕方は違法な差別なので 年齢が高くなってから大学院に行ってもそのために不利になることはありません.

あと一般的なメリットですが,やはりアメリカが世界の研究の中心であることは 間違いないので,英語も含めてそういう世界の一員に早くからなれると いうことでしょう. (数学でも分野にもよるし,何でもアメリカが一番というわけではありませんが, 世界中から人を集めていることがアメリカの最大の特徴です.アメリカの大学の 有名な数学者の中で,アメリカで生まれ育った人の割合は驚くほど低いんですが 積極的に世界中から優れた人を呼ぶ努力をしています.) ただ,日本である程度院生をやってから留学すると, また基本的なコースの単位を取れとか試験を受けろとか言われていやだ, という話もあります. まあアメリカはかなりフレキシブルなのでそんなに問題はないはずですが.

一般的なデータへのリンクを書いておきます.

その他の有用な資料として, "Assistantships and Graduate Fellowships in the Mathematical Sciences"という 100ページくらいの冊子が毎年アメリカ数学会から発行されています. これには,定員や奨学金の額などが全米にわたって詳しく載っており, とても便利です.東大数理の図書館には入っています.また アメリカ数学会のページで 直接買うことも可能です. (追記: A Mathematician's Survival Guide: Graduate School and Early Career Development (Steven G. Krantz)という本が アメリカ数学会から出ており,有用な情報がたくさん載っています.)

留学に必要な数学力

まず出願のときにGREというマークシートの テストがあります.下にもっと詳しく書きますが, レベルはあきれるほど低いものです.これはアメリカの 学部のレベルは日本やヨーロッパに比べてだいぶ低いからです.アメリカは不思議な 国で,世界最高水準の研究を誇りながら,学部の教育水準は先進国中最低レベルだと 思います.そのかわりに大学院生,研究者のレベルで世界中から人を集めるとか, 飛び級をはじめとして非常に融通が利くシステムなどによって世界最高レベルの 研究水準を保っています.それでも博士の基準について言えば トップの方は世界最高レベルですが,一流大学でもずいぶん程度の低い博士号を たくさん出しています.数学の博士は全米で毎年1,000人くらい出しているので 下の方が低いのはあたりまえですが.

ですから日本のちゃんとした大学(院)できちんと勉強していれば,知識や勉強の 量の点で不利になることはまったくありません. 基礎的なことをきちんと教え込むということについてはむしろ 日本(やヨーロッパ)の方が伝統的にちゃんとやっていると思います.たとえば 日本で学部3年生くらいで教えている,Lebesgue 積分,複素関数論,Galois 理論, 多様体論,(co)homology 群などはアメリカでは大学院の科目です.私は昔, Ahlfors の複素解析の 教科書の序文に「これはアメリカの大学院の教科書だ」と書いてあるのを読んで そんなバカな,と思いましたがほんとうに大学院で使っています.


男性または女性は大学で多くの成功している

そしてそういう基礎的な内容をちゃんとマスターしたかどうかについて, 大学院に入学してから qualifying examination というものがあります.Preliminary examination ということもありますが,だいたい代数 (線形代数から Galois 理論程度),幾何 (general topology から多様体,(co)homology など), 解析 (測度論,複素関数論,関数解析の初歩など) について日本の 大学2〜4年生くらいの内容の試験です. (見本としてUCLAの過去の試験問題にリンクを張っておきましょう.) アメリカ人の場合は,大学院に入学してから1〜2年,基礎的な勉強をしてこの試験を 受けることになります.決まった期間内に合格しなければ退学にされてしまいます. 日本人の場合,たいていはこういう内容は既に勉強しているはずなので, 試験だけ受けてわかっていることを実証すればそれでO.K.です.入学直後に 全部受けることも可能です.一部忘れたとか, 日本で習ってないとかいう場合は,その部分だけ授業を取るなり自分で勉強するなり すればいいでしょう. アメリカの大学(院)では reading assignment というのがあって 大量の本を猛スピードで読まされるというようなことが, よくあちこちに書いてありますが,数学ではそんなことは不可能なので 私の知っている限り世界のどこでもやっていません. 授業やセミナーの形態は世界中どこでもたいして変わりはありません.

あと研究して論文を書く段階になればだいたいどこの国でもやることは同じです. ただ一般的な傾向としてはアメリカの方が詳しく具体的に指導することが多いと 思います.親切だともいえますが,先生のやっていることをちょっと一般化した ような論文を先生の言うとおりに書いて博士を取ったけれど,それっきり自分で 研究できるようにならない,という危険もありがちです.

日本でもアメリカでも,試験に通ったり,単位を取ったり,博士論文を 書いたりして,博士号を取ること自体はそれほど難しいことはありません. それ自体が特にすごいことであるかのように言うのは大げさだと思います. 本当に難しいのはそのあと一生研究者として生きていくことの方で そのためには結局真の実力を身につけるしかないでしょう.

留学に必要な英語力

アメリカの大学院なんですから,英語ができないといけないのは明らかです. まず,入学願書提出に際し, TOEFL (日本のTOEFL サイト) という英語の試験を 受けないといけません.これは日本でもちょくちょく受けられます.最近は コンピュータ上で受験するものもあって,点数のつけ方が昔からのものと 違うんですが,ここでは昔からの500点が平均の方式の点数について述べます. コンピュータ方式の場合も500点平均の方に換算する公式があります.

私が昔何も準備しないで受けたときは553点でした.だいたい東大数学科の 学生がこれまで特に準備しないで受けたところでは, 510〜580点くらいのようです.試験ですから 練習をして準備すれば当然点数は上がります.TOEFL 対策の本は本屋でもたくさん 売っています.大学院留学には TOFEL は600点必要ということがあちこちの留学案内に書いてあって, 大学の公式のパンフレットにもよくそう書いてあったりしますが, 数学の場合550あれば英語が原因で落とされることはまずないし, それ以上あっても入学の審査については特に有利になることはないと思います. 真に重要なのは数学の実力の方だからです.そうは言ってもあまり低いのは まずいわけで,500を割っているようだと重大な問題があります.

TOEFL の点と実際にアメリカで生活するのにはまた違いがいろいろあって, 特にアメリカ大学院では奨学金をもらうために学部の演習を教えることになって いるので実際の英会話力は一段と重要です.TOEFL と同じところがやっている, Test of Spoken Englishという英語をしゃべる試験(テープに答えを吹き込む)とか, 大学独自の英語の試験で,ある水準をクリアしないと教えさせてくれない というのがよくある仕組みで,したがって それ達しないと非常にまずいことになります.また,入学当初に 大学独自の英語のテストがあって,点数が不十分だと強制的に大学の英語コースを 取らされるという仕組みもよく聞きます.

日本に将来帰ることにしても,数学の研究やコンファレンスのために外国に 行くことはいくらでもあるわけで,その際に英語で議論することは必須です. そういうときにいちいち頭の中で日本語に翻訳していてはリアルタイムで議論 できませんから,ちゃんと英語で数学の議論ができるようになるのは,非常に 重要です.そういう能力をちゃんと身につけるということも留学のメリットでしょう. もっとも留学しても身につけられなければ,放り出されてしまうわけですが.


犯罪は生徒たちをどのように影響を及ぼしている

奨学金について

アメリカの場合,日米の政府がお金を出すような奨学金はありません. (昔はフルブライトというのがありましたが,今はあれは 文学や歴史などに限られていて数学にはくれません.) (追記:最近日本の文部科学省でも長期留学支援のプログラムができました. あまり詳しいことは私も知りませんが, 文部科学省のページをごらんください.) そのかわりに各大学がたっぷりお金を持っていて,最初に書いたように 博士課程であれば通常授業料は(全額またはほとんど全額が)免除になり,Teaching Assistant という授業の補助をすることによって生活費も暮らせるだけ の金額がもらえます.場所にもよりますが,月額15〜25万円くらいもらえるはずです. (場所によってアパート家賃などの生活費はずいぶん違うので表面上の 金額だけではなく生活費のことも考えなくてはいけません.) アメリカの授業料はとても高いと言われていて,名目上はそのとおりですが, 数学では授業料をフルに自腹で払っている大学院生なんて聞いたことが ありません.メディカルスクールとかロースクールとか金になる技術を 教えるところではローンで借りて自分で払ったりして いるようですが,数学など研究路線のところはまったく違います.

奨学金のタイプには通常, Fellowship, Research Assistantship, Teaching Assistantship の3つがあります. 最後のものが上に書いたように演習を教えることによってお金をもらうもので, 前の2つはただ勉強,研究だけしていればいいものです.だから前の2つには実質的な 違いはありませんが,Fellowship という名前の方が, 条件がよかったり格が高かったり することが多いようです.Fellowship は特に優秀と認められた場合とか, 1年目(来たばかりで教えるのが大変だから)とか, 最後の年(博士論文に専念するため)にもらえる場合が多いと思います. また,実際に入学の直後に上で書いた qualifying examination を受けて, 成績がよければ条件のよい Fellowship をくれるというのもあります. (これらはもらえるものであって,当然あとで返済する義務はありません. あとで返すものは student loan と呼んでまったく別の種類のものです. 日本育英会のように原則としてあとで返すものを奨学金などと称しているのは 世界の常識に反しています.)

Teaching Assistant ですが,アメリカでは大学教員になるための教育実習のよう な役割もかねているので全員必ずある程度の期間やることになっています. (やっていないとアメリカで大学教員になろうとしたときに ずっと難しいことになります.) 実際の仕事の内容はさまざまですが,微積や線形代数などの演習を毎週50分 x 4コマ 程度教えてあと試験の監督や採点をするというのが典型的です.(宿題がたくさん 出るのでそれに関連した練習問題の解き方を解説すると言うのがよくある パターンです.)ただしこれは英語がある程度できないとさせてくれないので, 英語力がちゃんとあるということを実証する必要があります.上にも書いたように, 1年目は教えないで奨学金だけ丸ごともらって, 慣れてきた2年目以降に教えると言うのもわりとあります. 英語があやしい場合はレポートの採点をするというのもあるし, そのほか,質問を受ける時間に待機していて学生が来たら答えると言うのも あります.慣れてくると,あるいは大学によっては初めから普通の授業を 持たされることもあります.書類上では週20時間働くことになっていることが 多いですが,これは準備時間もカウントしているからで, 実際に教室で教えるのは通常もっとずっと少ない時間です.ただ慣れないとかなり 準備に時間を取られます.

日本でも最近あちこちで導入されていますが, 教員の教え方を学生が採点する Teaching Evaluation というのがあって,Teaching Assistant もこれを 受けます.だいたい「こんな英語の下手なやつに教えさせるな」 とかさんざん 書かれます.Cambridge大学出身のイギリス人が,「英語がなまっていて聞き取れない」 と書かれたというのもありました. あんまり評判が悪いと教えさせてもらえなくなって,奨学金も もらえなくなるのでちゃんとやらないといけません.またアメリカで教員ポストを 目指す場合は,この Teaching Evaluation の記録も重要になります.

入学願書提出等の手続きについて

手続きですが,秋の入学で1年前くらいから準備をするのがベストでしょう. もっと土壇場で申し込んでうまくいったような例もいくつも知っていますが, かなり選択の余地が狭まったりするので,早くから準備するに越したことはありません. (ただ,いろいろと融通はきくので,締切りが過ぎているとか,下の試験を 受けるのが間に合わなかったとかいう場合でもすぐにあきらめることはありません. いろいろと交渉の余地はあります.その際,交渉はできればつきたい教授, 少なくとも大学院入学担当の責任者の教授とするべきです. 事務は規則どおり機械的に対応しようとします.) 出願手続きに必要なのは,通常


  • TOEFLの成績 (日本のTOEFL サイト)
  • GREの成績
  • 学部の成績(すでに大学院に入学している場合はその分の成績も)
  • 推薦状3通
  • これまで何をしたか,これから何をしたいかを自分で書いた作文
です.このうち,TOEFLについては既に上で書きました.

GREは上にも少し書きましたがまあ, センターテストのようなマークシートの試験です.TOEFLともども 日本で受けられて,受験日も何回か選択の余地がありますが,それほどたくさん あるわけではないので早めに申し込んだ方が安心です.何回も受けてよい点数の 回の分を使うということも可能です.GRE はまず全員が受ける科目として, 数学,英語,分析力というのがあります.このうち数学は 想像を絶して簡単です. せいぜい中学生レベルのもので,満点以外取りようがありません.ただ,ときどき 問題の英語の意味がわからなかったりしますが,適当にマークしておけば大丈夫です. 日本のように1点を争うようなものではまったくないので,ちょっとくらい 勘違いで間違えても何も問題ありません.英語はアメリカ人の国語の試験なので こっちは猛烈に難しいです.数学の場合, どうせ外国人には無理だと思われているので, でたらめにマークしておけばそれで大丈夫です.分析力と言うのはパズルのような もので,おもりが4つあって,AとBを合わせたものよりCが重くて,と言った調子の ものです.これはほとんど重視されないし,英語の意味がよくわからないこともある のであまり気にすることはありませんが,まあ一応数学の論理にも関係するので, 丸っきりのバカだと思われない程度にやっておけばいいでしょう. (この分析力のセクションは2002年10月から大幅に変更になったので今は違います.)

さてそのほかに GRE の専門科目というのがあって我々の場合は当然数学です. これまたあきれるほど簡単です. 一応大学教養程度のレベルということになっていますが, 行列がちゃんとかけられたり,1/z の複素積分(積分路は原点の周りを一周している)が できたりすれば大丈夫です. またしてもときどき問題の英語の意味がわからなかったりしますが 適当に答えておけばO.K.です.日本のようなトリッキーな問題はありません. 私が昔受けたときは,かたつむりが1分に何インチ進んでとかいう小学生のような 問題があったんですが,私は1フィートが何インチか知らなくてこの問題だけ できませんでした.なぜこのようなやさしいものが試験として成立するのか とても不思議です.

大学の成績は,A, B, Cを4, 3, 2点に 換算して単位数の重みをつけて平均したものを GPA (grade point average) と呼んでアメリカでは重視するんですが, 日本ではいろいろ仕組みが違うのであまり判断基準にならないでしょう. まあ,成績がいい方がいいのは明らかですが. あと,取った科目の内容を書けといわれることもあってけっこうめんどうです.

推薦状はとても重要です.留学しようとする学生のことをよく知っていて,アメリカの 基準もよくわかっている人に書いてもらう必要があります.それを3人集めるのが 難しいこともあるでしょうが,なんとかするしかありません.

自分でやりたいことを書く作文も重要です.上にも書いたように日本から行く場合は だいたい既に専門が決まっているので,自分は何も知らないアメリカの 学部学生なんかではなくて既に高度の専門知識があるのだということをよく アピールする必要があります.すでに論文を書いているとか, 学会で発表しているとかいう場合はそういうことを強調すべきでしょう. また,留学したら誰につきたいかということをはっきりさせ, その人にはあらかじめコンタクトを取るべきです. よく,願書にコンタクトを取ったかどうか書く欄があります. コンタクトは e-mail でかまいません.ただ問い合わせの e-mail に どう返事をするかは,その先生の性格等にかなり依存します. 忙しい大物だと,ろくに返事をしないとか,とにかく普通の応募 手続きをしろとしか言って来ない事もありますが,それでも コンタクトした方がよいと思います.

合格ということになれば,visa の書類が送られてきます.通常大学院生の 留学はF-1というvisaのはずです.

大学への就職について

アメリカで博士を取って日本の大学に就職することももちろん可能です.最近は オープンに公募することが多くなっているので,しっかりした実力があれば 何も問題ありませんが,ここでは主にアメリカでの就職について書いてみましょう.


アメリカの大学には通常, 終身雇用のポスト(tenured),長め(3〜6年)の期間の契約でその間,ちゃんと 教育,研究をしていると認められればtenuredになるポスト(tenure track), 1〜3年間の期間が決まっていて切れたらほかの大学に移らなければならないポスト (temporary)の3種類があります.また位としては,上から professor, associate professor, assistant professor の3種類だけなのが普通で,ほかに大学によって, 博士取りたての人のポストをなんとか lecturer とか, かんとか instructor とか呼んでいることもあります. Assistant professor であっても,"Professor 誰それ"と呼ぶのは普通で,これが さらに発展(?)すると,誰でも彼でも,院生であっても一律に Professor と呼んだり することもよくあります.えらく若い人が Professor と呼ばれているのを見たり聞いたり して日本人はよく驚きますが,これは単なるアメリカのしきたりです.(ヨーロッパは こうではありません.) Assistant professor ではないほんとの professor と特に 言いたいときは full professor と言います.大学のポストにつくには博士はほぼ絶対に 必要で,博士を取った後は temporary のポストに応募して取ってくれる大学に 行くことになります. アメリカ数学会教員公募ページにいろいろな 公募広告が出ていますが,100通くらい願書を出すのはまったく普通のことです.

アメリカの数学の場合は,ほぼすべてのポストが教えるポストで, 研究だけしている研究員のようなポストはほとんどありません. 博士取りたての人にとって,例外はMSRIや Princetonの高等研究所の postdoctoral fellowshipくらいです.教える量は,50分 x 週3コマが一つのコースで,常時2コースと いうのが標準的です.年間30週間授業を行うのが普通で,15週 x 2の semester 制と 10週 x 3の quarter 制があります. 博士取りたてとか,研究主体の大学とか,特に研究成果が 認められるとかすると,もう少し教える量を まけてもらえることもけっこうありますが,概して アメリカは授業を授業負担はかなり多いと言えると思います.

そしていくつか大学を渡り歩いて,しっかりした教育,研究実績をつめば,めでたく tenure track --> tenured と進んでいきます.この間に脱落してしまえば学界では 生き残れません.Temporaryのポストが切れてどこにも行き場がなくなって数学研究を やめていく人はたくさんいます.アメリカにずっといたいという場合は,通常 tenure trackのポストに就けば,アメリカ永住権(green card)が取れます.その後 さらに何年かすればアメリカ国籍を取ることも可能です. また小規模大学の場合は,研究はどうでもよいから授業をちゃんとやって 欲しいということもよくあります.この場合は,研究業績については まったく問われませんが,授業の能力の方は英語力も含めて非常にシビアに 評価されます.

アメリカの数学の教員ポストの就職状況はかなり激しく変動しており, 将来の予測は困難です.私が院生だった80年代後半にはこれからよくなる一方だと 言われていたんですが,定年廃止,数学を取る学生の減少,共産圏の崩壊による 一流数学者の大量流出などによって,数学の教員ポストの競争は猛烈に厳しく なりました.一時はまったく 悲惨極まりない厳しさ (アメリカ数学会の 1997年の記事参照)と言われていたんですが, この2〜3年だいぶよくなっているようです.一つの原因は VIGRE というプロジェクトで政府がかなりの予算をつぎ込んでいることです.この ポストにはアメリカ人しかつけませんが,アメリカ人がみんなこれに回るので 大幅に競争が緩和されています.ただこれからのことはわからないし, 最終的には世界のどこででも通用する実力を自分が身につけることしかないでしょう.

(このページを書くにあたっては, Marta Asaeda 氏より大変有益なアドバイスをいただきました. ここに記して感謝します.)

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